ENGINEERS' COLUMN

vol.8

公開日:2026/03/13

Wi-Fi 8は「速さ」から「途切れない」へ Wi-Fi 7との違いと導入判断のポイント

  • アーキテクチャ

はじめに

Wi-Fi 7(IEEE 802.11be)の普及がようやく始まったばかりですが、すでに次世代の無線LAN規格であるIEEE 802.11bn(Wi-Fi 8)の標準化作業がIEEE 802.11ワーキンググループにて着々と進んでいます。
※注:Wi-Fi 8は、Wi-Fi Allianceが提唱する次世代の呼称です。

ここで、無線LANにおける2つの主要団体の役割を整理しておきます。

  • IEEE 802.11 ワーキンググループ:「技術規格」そのものを策定します。
  • Wi-Fi Alliance: IEEEが策定した規格に基づき、「Wi-Fi」ブランドのロゴ認証試験を行います。

現時点(2026年3月現在)でWi-Fi 8はまだ策定段階にありますが、その目指すべき方向性はこれまでの規格とは大きく異なります。これまでは、Wi-Fi 7の「Extremely High Throughput(極めて高いスループット)」に象徴されるように、最大速度の向上が優先される傾向にありました。しかし、Wi-Fi 8は高信頼性(Reliability)の向上を重視した規格を目指しています。つまり、Wi-Fi 7が「より速く」を追求したのに対し、Wi-Fi 8は実際の利用環境における「より高信頼な通信」の実現を目指しています。

この方向転換の背景には、社会的なニーズの変化があります。AI時代の到来や産業用IoTの進展、そして極めて高いリアルタイム性が求められるXR(クロスリアリティ)の普及によって、通信には「速さ」以上に「途切れない安定性」が不可欠となりました。

本稿では、Wi-Fi 8がどのようにして「高信頼性」を実現しようとしているのか、検討されている技術と今後の展望についてご紹介します。

Wi-Fi 8が目指す3つの目標

IEEE 802.11bn Project Authorization Request1では、Wi-Fi 7と比較して以下の3つの改善目標が掲げられています。

  • 特定の電波強度(SINR:信号対雑音比)条件下でのデータ転送速度を 25%向上
  • 遅延分布の95パーセンタイルにおいて、通信遅延を25%削減
  • アクセスポイント(AP)間のローミング時における通信データ損失を25%削減

これらの目標を達成するために実装が検討されている、代表的な技術をご紹介します。ただし、これらはあくまでも標準化途中の情報であり実装が確定しているわけではありません。

代表的な新技術とその仕組み(策定途中)

複数AP間の協調制御

これまでAPは基本的に独立して動作していましたが、複数のAPがチームのように連携します。

連携説明図
Coordinated Beamforming (Co-BF):

隣接するAP同士が連携して電波の干渉を避けるように信号の向きを調整し、干渉によるエラーを抑制します。

Coordinated Spatial Reuse (Co-SR):

周囲のAPと通信のタイミングや出力を調整することで、同じチャネルを使いながらも干渉させない同時通信を可能にします。

シームレスなローミング

ローミングとは、移動しながらでも、最も電波の強いアクセスポイント(基地局)へ自動で接続を切り替える仕組みのことです。

この切り替え時の「一瞬の途切れ」をなくし、移動中でもビデオ会議や動画視聴が止まらない「シームレス(縫い目のない)」な通信を実現します。

ローミング説明図
Single Mobility Domain (SMD):

複数のAPを論理的に1つのグループとして扱い、端末が移動する前に認証状態やセキュリティキーなどの接続情報を次のAPへ事前転送することによりパケットロスを最小限に抑えた「Make-Before-Break(接続断のない切り替え)」を実現します。

カバレッジの拡大

電波の届きにくいエリアでの通信品質を改善します。

カバレッジの拡大 イメージ図
Enhanced Long Range (ELR):

パケット構造とコーディングを工夫することで、端末側の送信電力が弱い場合でもAP側が確実に受信できるようにし、到達距離を広げます。

Distributed Resource Units (DRU):

6GHz帯などの電力制限がある環境下で、信号を広い帯域に分散して配置することで、実質的な送信電力を高め、上り通信の安定性を向上させます。

周波数の有効活用:

限られた電波チャネルを効率的に使う機能です。

周波数イメージ図
Dynamic Sub-channel Operation (DSO):

デバイスが必要な分だけチャネルを動的に割り当てることで、帯域の無駄を省き混雑を解消します。

Non-Primary Channel Access (NPCA):

メインのチャネルが塞がっていても、空いているサブチャネルを一時的に使って通信を継続し、遅延を防ぎます。

Wi-Fi 6 vs Wi-Fi 7 vs Wi-Fi 8:仕様比較

以下の表に、近年の規格の主な仕様をまとめます。

機能項目 Wi-Fi 6 Wi-Fi 7 Wi-Fi 8(想定)
主要な焦点 多接続の効率化 最大速度の追求 高信頼性
最大理論速度 9.6Gbps 約46Gbps Wi-Fi 7と同等
最大帯域幅 160MHz 320MHz 320MHz
変調方式 1024QAM 4096QAM 4096QAM

ポイントは、最大理論速度がWi-Fi 7と同等水準になると見込まれている点です。Wi-Fi 8では密集地や、電波の届きにくい境界エリア、移動中など、これまで不安定になりがちだった条件下での最適化を重視しています。

導入判断のポイント

Wi-Fi 8の標準化は2028年5月頃、製品の本格普及は2028年以降と見込まれます。2

今すぐアップグレードが必要な場合:

Wi-Fi 5以前を利用中で、速度不足や不安定さを感じている場合は、Wi-Fi 8を待たずにWi-Fi 6EやWi-Fi 7の導入をお勧めします 。6GHz帯の活用により、現状でも大幅な改善が期待できます。

信頼性を重視する特殊な環境:

産業用ロボットの制御、医療現場、大規模スタジアムなど、ミッションクリティカルな環境においては、Wi-Fi 8の導入を視野に入れた長期的なインフラ計画を検討すべき時期と言えます。

おわりに

今後、エッジAIによるリアルタイム処理が増える中、Wi-Fi 8が提供する「高信頼な通信」はAIサービスの基盤として不可欠なものになるはずです。
Wi-Fi規格は、その時代の社会的なニーズに合わせて進化してきました。大容量データを短時間で送る「速さ」は一定の水準に達し、これからは、いつでもどこでも、移動していても「安定して繋がり続ける」ことが無線LANにおいて当たり前の価値となります。この信頼性の向上は、利用者のみならず、ネットワークを管理する皆様にとっても大きな安心に繋がるはずです 。

小川 辰夫

著者情報

小川 辰夫

テクニカルサポート第3部 エキスパートエンジニア

2003年CTCテクノロジー株式会社に入社。
ネットワーク系のポストサポートエンジニアとして主にセキュリティー関連製品に携わる。
無線LANに関しては2005年から現在まで複数ベンダーの製品を担当。

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