ENGINEERS' COLUMN
vol.9
公開日:2026/05/22
ストレージの設計時に見落としがちなポイント3選
- ストレージ
はじめに
私たちサポートエンジニアは、お客様の機器に故障が発生した場合、復旧を最優先に対応します。一方で、システムが長期的に安定稼働するよう、提案や助言を行うことも重要な役割です。導入済みの機器を主にサポートしていると、時々「このシステムはなぜこのような設計・設定にしたのだろう?」と疑問に思うことがあります。有識者による設計が十分に行われている場合は、そのようなことはほとんどありませんが、要件が曖昧な状態で設計が行われたような場合、見落としや不十分な設計をしてしまうことがあります。今回は代表的なケースを3つ、具体的に考慮するポイントを交えて解説します。
ケース1 縮退運転時※1 の影響
企業向けのストレージアレイの多くは、ストレージコントローラが冗長化されています。コントローラの冗長化とは、コントローラが1つではなく複数(2つ以上)で構成されているものを指し、1つ故障が発生しても稼働し続けることができるよう作られています。ここでは、わかりやすくコントローラを2つ搭載したものを前提とします。
※1冗長化されたコントローラが1つ故障した状態
2つのコントローラ構成は、「アクティブ・アクティブ構成」と「アクティブ・スタンバイ構成」の2つに分けられます。
| 構成 | 特徴 |
|---|---|
| アクティブ・アクティブ | 両方のコントローラが常にサービスを行う構成。 |
| アクティブ・スタンバイ | サービスを行うのはアクティブ側のみ。 アクティブ側が故障時に、スタンバイ側はアクティブへ昇格する。スタンバイ側は普段は待機状態。 |
一見すると、アクティブ・スタンバイ構成の片側(上図の右側)は、正常時は待機状態のため「使われずもったいない」という見方がありますが、コントローラ故障時もアクティブなコントローラ数が変わらないため、性能を担保できる側面があります。
コントローラが1つ故障した際のストレージアレイの性能
| 構成 | 性能(正常時=1) |
|---|---|
| アクティブ・アクティブ | 最大0.5 |
| アクティブ・スタンバイ | 変化なし(1のまま) |
例えば、アクティブ・アクティブ構成のストレージアレイを利用しており、性能の30~70%で定常的に稼働させていたとします。この場合、コントローラが1つ故障してしまうと、理論上、システムとして出せる性能の最大値は50%となり、20%分の過負荷が生じることがあります。これにより、I/O遅延やタイムアウトの発生を招き、アプリケーションが停止してしまうなどのサービス影響が出る可能性があります。そのようなことにならないよう、サイジングする際に考慮が必要です。
ポイント
正常時と縮退時の性能差の有無、および、縮退時の性能の許容可否
必要な性能要件をもとに、ドキュメントから縮退時の性能を事前に把握することは難しい場合がありますが、サイジングツールが提供されていれば、UtilizationやSaturationという指標でこれを確認することができることがあります。アクティブ・アクティブ構成においてこの指標を考える場合は、環境により異なりますが、性能最大値の50%~60%程度に収めておく※2 と1つの目安になります。
※2負荷が一時的なスパイクの範囲であれば、必ずしも50%以内に収める必要はないため、50~60%としています
縮退時の性能以外の視点の考慮
アクティブ・スタンバイ構成はコントローラの故障によるフェイルオーバー時に、数秒程度の瞬断が一般的に発生します。一方で、アクティブ・アクティブ構成は無停止であるか、アクティブ・スタンバイ構成よりも短い時間の瞬断で済むケースがあります。
これはストレージのファームウェア更新を行う場合も同様であるため、その瞬断時間を許容できるかを考慮しておく必要があります。
ケース2 データ削減効果の見誤り
エントリークラスを除き、ミッドレンジクラス以上の多くのストレージアレイはデータをストレージ内部のドライブに書き込む際に、重複排除・圧縮といったデータ削減機能を実装しています。
データ削減機能はメリット・デメリットがそれぞれありますので、設計前に特徴を理解しておくことが必要です。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 重複排除 圧縮 |
実用量より多くデータを保存できることで、コスト削減効果※3 が高い | ストレージコントローラの負荷が高くなるデータの種類※4 によっては効果が低い |
※3ドライブ本数、設置スペース、電力、保守費用など
※4主に動画、画像、暗号化データなど。すでに圧縮済みである、データがランダム化されている(=規則性や繰り返しがほとんどない)ため、効果は低い。
データ削減効果について、製品概要やカタログの数値をそのまま前提としてしまうと、想定より削減されない、またはその処理の負荷により、IOPS※5 が低下する場合があります。データ削減の効果が見込めるか見極めたうえで、機能の有効化判断・製品選定を行うことが必要です。
※5IOPS…1秒あたりの入出力回数
ポイント
データ削減率の指標
データの種類で変動しますが、指標は多くの場合はドキュメントやサイジングツールが提供されています。ただし、データ削減が効きやすいデータが多い場合でも、実際にはデータ削減が効きにくいデータが混在することがあるため、指標よりもコンサバ(安全な見積もり)に考えるのが無難です。具体的な数値は利用環境により異なりますが、指標から一般的な目安として20%程度下げるのは1つの考え方です。(例えば、データ削減効果が5:1であれば、4:1と見ます※6)
※6データ削減効果が5:1とは、例えば100GBのデータがあった場合、容量を1/5(20GB)程度の消費で済む、4:1であれば容量を1/4(25GB)程度で済むということ
なお、製品によってはもともとコンサバな数値を設定している場合もあるため、有識者の見解を得てみることも必要です。
また、データ削減に関わらず、容量を使い切るギリギリのサイジングは、想定外の容量増加に対応できないため避けるべきです。これについては、シン・プロビジョニング機能を利用することを推奨します。
負荷の影響
データの書き込み時にはデータ削減処理(重複排除・圧縮)行いますが、読み込み時はその逆のデータ復元処理が行われることは覚えておく必要があります。これらの処理は、RAID演算のような処理と比較すると負荷は高く、インライン処理またはポスト処理※7 のどちらの場合でも差異はありますが、一定の性能影響が生じます。オールフラッシュストレージであれば、ある程度メディア(SSD)の性能で補うことは可能ですが、そうではない場合はその影響が大きくなる可能性が高いです。性能要件がシビアな場合、データ削減機能は不向きであることがあります。用途に応じた製品選定・機能利用を行うことを推奨します。
※7インライン処理…データをメディアに書き込む前にデータ削減処理を行う
ポスト処理…データをメディアに書き込んだ後にバックグラウンドでデータ削減処理を行う
ケース3 曖昧なミニマムスタート※8
サイジングが曖昧な状態で基本設計をしなければならないことは珍しくありません。ミニマムスタートして後で必要に応じて拡張をしていけば良いと判断して導入を進めてしまうと、後になって想定外の制限に遭遇し、思うように拡張・増設ができないことがあります。
※8コントローラ性能やストレージ容量を必要最小限の条件で構成したもの
例1)
ストレージの利用部署が増えてきたので、容量拡張とNASサーバ※9 の追加を行おうとしたが、利用中のストレージアレイのモデルが後からNASサーバを追加できない仕様だった。
※9NFSやSMBのサービス提供を行う物理または論理サーバ
例2)
ユニファイドストレージアレイ※10 を購入し、導入当初はBlockのみで使い、しばらくしてからFileの機能を利用しようとしたが、ストレージコントローラのメモリ容量の制限でFileの機能が利用できなかった。
※10Block(FC、iSCSIなど)とFile(SMB、NFSなど)を両方サポートするストレージアレイ
例3)
導入から数年が経ち、ストレージ容量が枯渇してきたため、HDD増設を行った。導入時と同じ容量のHDDが販売終了していたため、大きな容量のHDDを増設したところ、ストレージアレイが必要とするスペア領域※11 も増えてしまい、計画していた容量増強ができなかった。
※11故障したドライブのデータが失われないために、退避先としてあらかじめ予約された容量
ポイント
導入当初は例示したような機能の利用や実装はなくとも、その機器で実現可能なこと(制限値や機能有無)を確認しておく必要があります。また、導入時に設定した内容が後になって変更できないという場合もあるため、可能な範囲で変更を想定した確認も行うことを推奨します。
増設時の容量計算は正確に計算することは難しいですが、容量をすべて使い切るような設計は避けることを推奨します。(製品ごとに異なりますが、容量は10%以上の余裕を持った見積もりを行い、未使用分として維持するようサイジングしましょう。)
まとめ
今回紹介した3つについて、設計時に気にしていなかった点はあったでしょうか。基本設計におけるポイントではありますが、製品紹介資料や公開ドキュメントでは触れることはない内容かと思いますので、導入や更改(更新)する際に参考になれば幸いです。
※本ページに記載されている社名、製品名などは、一般に各社の表示、商標または登録商標です。
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